「ここです」
億川さんが呼び出されたのは昨日の小屋だった。
「じゃ、さっさと行きましょうか」
泪はそう言って扉を開けた。
小屋の中には、30人以上の男か立っていた。
城羽の生徒よりもそれ以外の制服を着ている人の方が多い。
「嘘‥‥なにこれ‥‥」
「随分待たせてくれたじゃねぇか」
そう言ったのは昨日鉄バットを持っていた男だった。
鼻が折れたのか、顔にはサポーターをしている。
「何で‥‥」
「よく連れて来てくれたな、億川」
男はこっちを見てニヤリと笑う。
「どういう‥‥ことよ」
泪は男を睨みつけたまま、半歩だけ前に進む。
「分からねぇか? お前らは騙されたんだよ、その女にな!」
「ち、違います! 私は――」
「違わねぇだろ!? お前は一人で来ないでそいつらを巻き込んだ!」
俺は愉快そうに笑い、周りの男達も連れるように笑う。
「それは違うわ」
泪が億川さんを庇うように立つ。
「あ?」
「私達は自分で決めてここに来たの。周りに流されて、つるんでるだけのあんたらとは違うのよ」
「んだとテメェ!」
鉄バットの男の近くにいた男がそう言ってこっちに向かって走って来る。
が、男は泪にいとも簡単に地面に叩き付けられた。
「五泉さん‥‥強い‥‥」
「まぁ、合気道習ってたからね」
泪はそう言って億川さんに笑いかけ、そして僕を見た。
「ショウ、億川さんを連れて逃げて‥‥億川さんを、守って」
泪の表情からは、不安や恐怖は感じられなかった。
感じたのは、自信だった。
こんな危機的な状況でも、なんとかという、絶対的な自信。
僕は泪のその自信を信じた。
「分かった‥‥行きましょう、億川さん」
僕は驚いている億川さんの手を取って走りだした。
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