あれはいつの頃だったのだろう‥‥
多分、小学生になったかならないかくらいの時だったと思う。
僕と泪は二人でテレビを見ていた。
母親が好きだったお昼のドラマ。
「大人の話だから絶対見ちゃダメ」と言われ、それが逆に僕達の好奇心に火をつけた。
母親が買い物に出かけた時に、二人でドラマを見た。
すぐに後悔した。
再生してすぐに、かなり濃厚なキスシーンになったから。
「うわ、キスしてるよ‥‥」
僕は照れ臭くて、ついそう言ってしまった。
「こんなの絶対気持ち悪いよ。口と口くっつけるなんて汚いし‥」
本当は、大人になったらこういうことをするってことは知っていたし、気持ち悪いことじゃないってことも、汚くないってことも知っていた。
でも、とにかく照れ臭くて、そう言わないといけない気がした。
「ねぇ?」
僕は隣にいた泪の方を向いて訊いた。
泪は少し考えた後、笑顔で僕に訊き返して来た。
「やってみる?」
「え?」
僕が問い返した瞬間、泪が僕に向かって飛びついて来た。
「ちょ、泪、ダメだってこんなんむ!」
泪は抗議する僕の口を無理矢理キスして塞ぐ。
無理矢理引きはがそうとしても、全く離れなかった。
結局泪が離れるまでキスをされ続けた。
「る、泪‥‥ダメだってこんなの‥‥」
「‥‥何で?」
「だって、好きでもない人とこんな‥‥」
「好きなら良いの? だったら、私はショウが好きだから、良いでしょ?」
「僕の意見が入ってないじゃん‥‥」
「ショウ、私のこと嫌いなの?」
泪が悲しそうな顔で僕に訊く。
「いや、嫌いじゃないよ」
僕は慌てて否定する。
「なら問題ないでしょ」
「でも‥‥」
「それに――」
泪はそこで言葉を止めると、もう一度僕にキスした。
「こんなに気持ちの良いもの‥‥一度知ったら止めらんないもん」
泪はそう言って笑顔で僕にまたキスをした。
「ショウも‥‥気持ち良いでしょ?」
「‥‥うん」
僕は正直に答えると、泪はまた僕にキスをした。
その時に言った「好き」が本当に異性としての「好き」だと言うことに気がついたのは、それからずっと後のことだった。
「‥‥って訳です」
僕が億川さんに話している間ずっと、億川さんは顔を真っ赤にして聞いていた。
「九重君も‥‥キス、好きなんですか?」
「違いますよ!」
「でも、気持ち良かったって‥‥」
「あれは‥‥」
泪の唇が柔らかくて気持ちが良い‥‥なんて言えるわけがない。
「‥‥好きじゃないけど、嫌いでもないんです」
「そうなんですか‥‥」
しばらく部屋の中が沈黙に包まれる。
「‥‥いい、ですか?」
しばらくしてから億川さんが呟くように言う。
「え?」
「私も‥‥キスして‥‥いいですか?」
億川さんは顔を今までで一番真っ赤にして僕を見つめる。
「はい!?」
僕は思わず大きな声で叫ぶ。
「ダメ‥‥ですか‥‥?」
「いや、ダメっていうか‥‥その、こういうのって好きな人同士がやることで、そういうのじゃないと‥‥」
僕が混乱してる頭で無理矢理言葉をくっつけて説得しようとすると、億川さんは首を傾げた。
「でも‥‥『最近は友達同士でもキスするんだ』って奏さんが‥‥」
「え‥‥そうなんですか‥‥?」
よく分からないけど‥‥そういうものなんだろうか‥‥
「そう‥‥みたいです‥‥私は友達いなかったので、わかりませんけど‥‥」
だったらいいんだろうか‥‥
「あの、それで‥‥」
億川さんがそう言いながら僕にくっつくくらい近づいた時だった。
「ショウ! 今帰って来た‥‥よ?」
僕の部屋の扉が壊れるくらいの勢いで開かれた。
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