「あ〜これ打ち身だな」
七瀬先生は僕の怪我をそう診断した。
「打ち身‥‥ですか?」
「ああ。まぁ、そんなに心配するほどのことでもないだろうが‥‥ま、一応処置しておくか。三十木はもう戻ってもいいぞ」
「嫌です」
三十木さんが即答する。
「‥‥何?」
「私には、怪我をさせた責任がありますから」
「せ、責任だなんてそんな‥‥」
僕が言いかけると、七瀬先生が制止して三十木さんの方を向く。
「責任を取りたいなら、九重の分も仕事しな。ここにいたってお前に出来る事なんて殆どないんだ。だったら九重の分も働くことの方が、責任を果たせると思うが?」
七瀬先生がそう言うと、三十木さんは躊躇したが、七瀬先生の言う通りに保健室を出て言った。
「全く‥‥意外に強情だな」
七瀬先生はそう言うと僕の耳元に近づき、すごく小さい声で耳打ちする。
「結構ひどい怪我だ‥‥上脱いで横になれ」
「えっ‥‥」
思わず僕は七瀬先生の顔を見ていた。
「でも、さっきは‥‥」
「あれは嘘だ。きちんと教えたら三十木がさらに自分を追い込むだろうが」
七瀬先生はまた小さい声で言うと僕から離れ、薬を探し始める。
僕は七瀬先生に言われた通りに上着を脱いで横になる。
「全く‥‥そんなことしてたら、また泪に怒られるぞ」
七瀬先生は呆れ顔で呟く。
「そう‥‥かもしれませんね」
僕の脳裏に、二ヶ月前にこの部屋であったことが浮かんでくる。
あんな顔は、もう二度と見たくなかった。
でも‥‥
「困ってたら、助けてあげたいじゃないですか。絶対にほっとけませんよ」
「‥‥だろうな」
僕の言葉に、七瀬先生がニヤリと笑い、薬を塗り始める。
ひんやりと冷たい。
「ハイ、終わり」
七瀬先生はパチンと背中をたたく。
痛みはなくなっていた。
「凄い‥‥」
「まぁ、京極が持ってきた薬だし、これで大丈夫だと思うが‥‥出るなとは言わないが、あんまりはしゃぐなよ、体育祭。また痛みだすからな」
「はい、わかりました」
僕が立ち上がり、上着を着終わった時、保健室の扉が勢いよく開いた。
「ショウ!! 大丈夫なの!?」
そう叫びながら入って来たのは泪だった。
「大丈夫だよ‥‥だから落ち着いて」
「で、でも‥‥」
泪は心配そうな表情をしてオロオロしている。
「ただの打ち身だよ。だから大丈夫」
僕はそう言って泪の頭を撫でる。
泪はようやく安心したのか、ニカッと笑う。
「そっか! それじゃあ、リレーの練習してくるから、待っててね!」
泪はそう言うと走って出て行った。
「‥‥九重、本当に‥‥無理、するなよ」
出ていく間際に、七瀬先生が不安げな表情で僕に言う。
「分かってますよ」
僕はそう答えた。
本当は‥‥無茶する気満々だったけど。
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