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PASQUA《パスクア》プロローグ

味方のクリアボールを、藤村夏樹(ふじむらなつき)の足元に届いた。

藤村は前を向いて、ドリブルでひたすら突き進む。

日本人の小学生のプレーに、気圧され、平伏し、魅了された。

同年代の少年少女達では、彼を止める事など、出来なかった。

監督の久永紗和(ひさながさわ)と、チームメイトの須佐美咲(すさみさき)も、そんな彼のプレーに魅了された人間だった。

久永にとって彼ほど楽な存在はいなかった。

高い才能を持ち、彼にボールが渡れば彼だけで攻撃出来る。

チームは彼が戦術となっていた。

須佐らチームメイトも、それを了承していた。

了承せざるおえない程、彼のプレーはずば抜けており、チームメイトすら彼に畏怖し、惹きつけていた。

藤村が、次々に相手を躱して突破して行く。

最後のディフェンダーを抜き、ゴールキーパーと一対一になった。

その瞬間だった。

藤村の右足に激痛がした。

すぐに、スライディングタックルを後ろから受けたと分かった。

藤村はそのまま倒れ込む。

すぐに、審判の笛が吹かれた。

当然の事だと、須佐は思った。

彼のプレーを止めるために、ファールで強引に止める事は珍しくなかった。

藤村もそれを気にせずにすぐに立ち上がってプレーを続けていた。

だが、今回は違う。

藤村は痛がったまま起き上がって来ない。

今回はいつもと違う。

骨が折れたのかもしれない。

久永がそう考え、立ち上がると。

「……っうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

藤村の悲痛な叫びが会場に響き渡った。

あきらかな異常に副審の制止を無視して、久永と須佐が彼に駆け寄る。

須佐は、一目見ただけでどこをどのくらい怪我したのか分かる、という優れた能力があった。

だが、今回は須佐の力は必要なかった。

久永ですら、見た瞬間に彼の足が普通ではない事が分かった。

足が、あるべき向きを向いていない。

明らかに、大きく外側向いていた。

「担架! 早く!」

久永が奇声にも似た絶叫をあげる。


その後、「藤村夏樹」の名前を訊く事は、二度となかった。
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